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デザイン×知財の共創が事業にもたらす新しい可能性。CDOと知財担当者の対談をお届けします。

この度、Visionalは、令和6年度の知財功労賞「特許庁長官表彰(デザイン経営企業)」を受賞しました。

「知財功労賞」(主催:経済産業省・特許庁)は、日本の知的財産権制度の発展・普及・啓発に貢献した個人、および、知的財産権制度を積極的に活用した企業等を表彰するものです。その中の表彰区分の一つである「デザイン経営企業」は、世界に通じる優れたデザインを生み出し、知的創造サイクルの実践に寄与した人材や、デザイン経営を取り入れながら知的財産を有効活用している企業に贈られます。

※Visionalの受賞のポイントは、こちら

この記事では、株式会社ビズリーチ 執行役員 CDO(Chief Design Officer)の田中裕一さん(トップ写真:左)と、Visional全体の知財機能を一手に担っている法務室 知的財産グループの米谷仁矩さん(トップ写真:右)の対談をお届けします。

Visionalは、創業時から一貫してデザインを大切にし続けています。そして、デザインのチカラを通して各事業の成長を加速させていく上では、デザインと知財の連携が不可欠です。知的財産グループ(以下、知財グループ)は、Visionalの事業づくりにおける知財の重要性の高まりを受け、2021年8月に発足した組織です。事業の競争優位性を保ち、揺るぎないものにするために知財を活用すべく、各事業部・各組織と密に連携しながら、知財ポートフォリオの構築(特許・商標の出願・権利化)や侵害予防調査をはじめとした知財活動を進めています。

今回、「Visionalにおけるデザインと知財の連携」というテーマで田中さんと米谷さんの対談を行い、それぞれの現在のフェーズ、お互いが大切にしている価値観、また、今後の展望について聞きました。


プロフィール

田中 裕一/Tanaka Yuichi
株式会社ビズリーチ 執行役員 CDO
通信販売会社でのEコマース事業立ち上げ、インターリンク株式会社での複数企業のプロジェクト推進を経て、2012年、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。Eコマース事業のデザイン統括、新規事業のプロダクトマネジメント、デザイン人事に従事。2017年、株式会社ビズリーチに入社。2018年、デザイン本部を組成し、デザイン本部長兼CDOに就任。2022年8月、プロダクト組織開発本部長に就任。その後、全社人事・管理機能の設計・推進を経て、2024年2月より現職。全社戦略実現のためのコミュニケーション設計・推進を中心に担う。

米谷 仁矩/Yoneya Masanori
北海道大学工学部卒業後、2010年に三菱重工業株式会社に入社し、様々な事業の知財戦略策定、国内外の特許・商標出願・権利化、模倣品対策、紛争対応、知財デューデリジェンスなどのM&A対応、海外グループ会社の知財業務支援などに幅広く従事。2012年に弁理士資格を取得。2017年に米国ジョージワシントン大学ロースクールに留学し、法学修士号(知財専攻)を取得。2022年8月、ビジョナル株式会社 管理本部 法務室 知的財産グループにジョイン。


右:田中裕一さん
左:米谷仁矩さん


Visionalのデザインの現在地、「融ける“デザインのチカラ”」

──はじめに、Visionalの経営や事業づくりにおけるデザインの位置付けについて教えてください。

田中:Visionalには、創業時からデザインを大切にし続けてきた歴史があります。まず何より、南(壮一郎)さん(Visional代表)が事業を始めた当初から一貫してデザインを重要なものとして位置付けてきました。世の中のスタートアップを見渡すと、スピード感をもってビジネスモデルを作ってPDCAを回していく会社が多いのですが、例えば、Visionalの創業事業である「ビズリーチ」のロゴは、サービス開始時に徹底的にこだわり抜いて作ったもので、事業として大切にしたい想いがしっかりと込められています。その結果として、このロゴは15年が経った今も変わらずに使われ続けています。

また、創業役員の一人の永田(信)さんが、デザインに対する強いこだわりをお持ちの方で、創業時から、お客様にどのような価値をどのように届けるのかを一気通貫で設計されていました。「ビズリーチ」が大きな成長曲線に乗っていく中で、ともすれば、徐々にデザインやユーザー体験という考え方が薄れかねない局面もあったと思うのですが、デザインを重んじるマインドは現在に至るまで継承されています。

──田中さんは、2017年に入社し、2018年にCDOに就任しましたね。

田中:当時の規模のメガベンチャーでCDOを立てるケースは日本では新しく、それは、会社としてデザインに投資していくというメッセージでもあったと思っています。

ここで言うデザインは、狭義のモノづくりだけではなく、事業、プロダクト、組織などあらゆるものを設計し価値創造をしていくという広義のデザインも含めて指しています。私たちは「新しい可能性を、次々と。」というグループミッションを掲げながら、主要事業の「ビズリーチ」に限らず、これからもどんどん新しいサービス、新しい価値を作り続けていきます。こうした考え方が、Visionalで働くすべての仲間の共通認識となるように、デザイン・フィロソフィー「We DESIGN it.」を策定しました。

──2022年8月にはデザイン組織を解体しデザイナーが各事業部に入り込む体制に移行させ、内側からデザインをはたらかせていくことを「融ける“デザインのチカラ”」と掲げました。これらの背景にある想いについて教えてください。

田中:2018年のCDO就任のタイミングでデザイン本部を立ち上げましたが、現在の姿から逆算した、非連続な成長に沿った組織の変革に当時から計画的に取り組んできました。

一般に、デザインに投資するとなった時、デザイン組織を作ったり、デザインを主体にした取り組みを進めていくというケースが多いと思うのですが、我々は、あくまでもデザインは、新しい価値を生み出し世の中に大きなインパクトを与えていくためのツールであると考えています。そしてその力は、デザイナーという職種に限らず、みんなが持てるものだと思っています。ビジネスパーソンがロジカルシンキングやシステムシンキングを使うのと同じように、本来は誰もがデザインシンキングを活用してビジネスの課題を解決することができるはずです。ただ、日本ではまだまだデザイン教育が進んでおらず、経済合理性を追いかけるビジネスにおける思考のベースがロジカルシンキングになっています。そうした中で、本来は誰もが使うことのできるデザインシンキングを組織に融け込ませてはたらかせていく、というのが、Visionalの現在のフェーズです。

──デザイン組織を解体するにあたって、在籍していたデザイナーにどのようなメッセージを伝えたのでしょうか。

田中:今の組織体制を想定してデザイン組織を発展させていく中で、当時「融ける」というワードはなかったものの、デザインへの考え方や身に付けてほしいスキルなどは時間をかけてメッセージングしていました。一部のメンバーには、「We DESIGN it.」は現在の状態を見越して策定していると伝えていたので、組織変更そのものに対する大きな違和感はなかったと思います。

──この約2年間を振り返ってみて感じたことがあれば教えてください。

田中:例えば、エンジニアやプロダクトマネージャーは、もともとデザイナーと共通する考え方・働き方をしているということもあり、デザイナーが各事業部のプロダクト組織に入り込んでいくことについても、「ビジネスパーソンとしてのスキルの一つとしてデザインを活用できる人」として受け入れてもらいやすかったと思います。

実際に、各事業部に融け込んだデザイナーの中には、エンジニアリングチームやプロダクトマネジメントチームのマネージャーを務めている方もいますし、また、ビズリーチ事業部・HRMOS事業部のデザインを率いる大河原(陽平)さんのように、サービス全体のロードマップ策定をプロトタイプによる具体化によって推進している方もいます。そうした方たちが様々な場でバリューを発揮する中で、他の職種の方たちにも、一緒に事業づくりを進めていく上でより密にコラボレーションしていくことができる可能性を感じてもらえているのではと思っています。


田中裕一さん


事業を成長させるためのツールとしてのデザインと知財

──知財に関する話も聞いていきたいと思います。田中さんがCDOに就任した当初は、デザイン戦略の中に知財をどのように位置付けていたのでしょうか?

田中:最初にデザイン戦略を立てた時には知財活動にも注力していきたいという考えがあったのですが、当時は知財活動を推進するケイパビリティがなく、やりたいこと、やるべきことはたくさんありつつも、なかなか手をつけられていなかったというのが正直なところです。

──2021年8月に、法務室の中に知財グループが発足されました。

田中:それまでデザイン組織で全く手が及んでいなかった領域を、スペシャリティーを持つ仲間が力強く推進してくれることは、とてもありがたいと感じています。

──知財グループ発足の1年後の2022年8月に米谷さんがジョインし、さらにVisionalの知財活動が加速していきました。次に、米谷さんに質問です。まず、Visionalの知財活動や、各事業部との連携について教えてください。

米谷:知財グループの主な取り組みの一つが、知財ポートフォリオの構築です。各サービスの特許については、競争優位性を確立するために、各プロダクト組織のエンジニアやデザイナーの方と密に連携し開発の進捗をタイムリーに把握しながら、権利取得を進めています。デザインに関しては、UI・UXデザインに関する権利取得に取り組んでいます。お客様目線で考えられた、VisionalらしいUI・UXデザインを、コンセプトを理解した上で特許などで守っていくことで、デザインによる事業の成長に貢献できるように取り組んでいます。

──米谷さんは、デザイン組織が解体して今の組織体制になったタイミングでVisionalにジョインしていますが、働き始めて感じたことなどがあれば教えてください。

米谷:一般には、前までVisionalがそうだったように、デザイン組織があって、そこに各部門からデザインの依頼が来るという体制の会社が多いのではないかと思いますが、Visionalでは、デザイナーが当たり前のようにプロダクト組織の中で仕事をしているので、はじめは驚きましたね。プロダクト組織の方と喋っていても、エンジニアなのかデザイナーなのか分からないぐらい自然に組織に融け込んでいると思います。

──プロダクト組織のメンバーをはじめとした事業部の仲間とコミュニケーションする上で、知財グループとして大切にしている価値観や考え方があれば教えてください。

米谷:先ほどの裕一さんのお話にも通じるのですが、知財グループは、「事業のための知財」という価値観を大切にしています。これは、知財活動の目的は、事業を成長させることであり、決して「知財のための知財」になってはいけない、という意味の言葉です。知財を目的ではなく、事業を成長させるための一つの手段として捉える、という考え方は、絶対にぶらさないように心掛けています。

裕一さんが発信されている「融ける“デザインのチカラ”」という考え方は、知財組織や知財活動にも適用できるのではないかと考え、非常に参考にさせていただいています。知財グループも、デザイナーと同じように、もっと各事業部・各組織に入り込み、まさに事業に融けていくことが必要だと思います。組織やプロセスの内側からはたらきかけていくことで、みんなが日々の事業づくりの中で当たり前に知財について考えてもらえるようになれば、会社全体で知財活動がさらに活性化し、知財のチカラでさらなる事業成長の後押しが可能になると考えています。

田中:とてもいいですね。日々の営みの中で、「これって知財になるものだよね。」という会話が当たり前のように繰り広げられたら、とても理想的ですよね。

米谷: そうですね。それに関連して裕一さんに質問したいのですが、約2年前、それまでデザイン組織に在籍していたデザイナーを各事業部に融け込ませていく時、どのようなことを心掛けていたのでしょうか。

田中:先ほどお話しした私たちのデザインの考え方を元に、デザインは目的ではないということは、組織体制を変える前から伝え続けていました。米谷さんが知財についてお話しされていたように、デザインも事業を成長させるためのツール・手段の一つですので、そういった考え方をみんなが持った上で事業に入り込んでいけることを大事にしました。

──融けていく側の目線で言うと、その人自身が、事業の環境に合わせて、絶えず変化・成長し続けていかなければならないのだろうと想像しました。

田中:おっしゃるとおりで、事業の目線に立ちながら、いわゆる狭義のモノづくりに限らないデザインのチカラを鍛え続けていくことが求められます。

米谷:今のお話は、まさに知財にも通じると思いました。今後、知財グループが今以上に各事業部・各組織に融け込んでいくためには、しっかりと事業の目線に立って、知財を活用してできることを徹底的に考え抜き、事業の当事者として責任を持って実行していくことが必要だと感じました。


米谷仁矩さん


デザインと知財で、Visionalが大切にしている思想や価値観を守り、未来へ繋いでいく。

──最後に、お互いに期待することや、これから連携を深めることで挑戦したいことがあれば教えてください。

田中:今日お話しさせていただいて、デザインやプロダクトに関わる方々にVisionalの知財グループの活動をもっと広く伝えていきたいと思いました。というのも、世の中の大きな流れとして資本主義のあり方が変わっていく中で、今後、いわゆる経済的な資本だけでなく文化資本が優位性の一つになっていくと思っています。その上で、会社が持つ文化資本の一つが、知的財産、つまり、人の知から生まれた財産であり、こうした資本をどういう方針で生み出しているのか、どのように活用するか、という問いが、今後、会社のあり方に直結してくると思うんですよね。そして、この問いと真摯に向き合っていくと、売れることだけがすべてではなく、より意義のあるもの、より価値のあるものを生み出す方向に会社が向かっていく。そういったことをモノづくりに関わる方々と共有していきたいですし、我々自身もそうしたスタンスで頑張っていくぞという宣言をしていきたいです。

米谷:ありがとうございます。今のお話を聞いて、改めて、知財グループとして今以上に深く事業や経営に融け込んでいかなければいけないと思いました。モノづくりやデザインを大事にしているVisionalだからこそ、各事業部の方と連携しながら知財活動を進めていく上では、我々自身が、その事業が大切にしている思想や価値観を本質的に理解できているかどうかが重要だと思います。

例えば、特許を取得する際も、表層的な部分だけでなく、サービスの本質について我々が理解できているか、つまり、「私たちは、こういう想いを持ってこのサービスを運営していて、このアイデア・デザインにはこういう想いが込められている。」ということを事業の一員として理解することで、事業の本質的な部分を守る権利を取得することができ、それこそが、事業の成長を後押しすることに繋がると考えています。だからこそ、もっと各事業部・各組織に融け込んで、Visionalが大切にしている想いを自分ごととして語ることができ、事業づくりにおいて知財を最大限に活用していくことができる知財グループを作っていきたいです。

田中:今のお話のように、Visionalが大切にしている思想や価値観を守る、というテーマにもぜひ一緒に取り組んでいきたいと思いました。例えば、Visionalには、ビジネス職の方もプロダクト職の方も、お客様の課題と向き合って事業づくりを進めるという文化があります。他にも、みんなが当たり前のように大切にしているけれどまだ言語化されていないものが、この会社にはまだまだたくさんあると思うんですよね。そうした大切なものを、守り、繋いでいく、という活動も、ぜひ一緒にやっていけるのではないかと思いました。

米谷:ありがとうございます。今後も皆さんと、様々な場面で連携を深めていけたら嬉しいです。


4月18日(木)の知財功労賞表彰式で、
特許庁長官の濱野様(写真:中央)と共に撮影した記念写真


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この記事の執筆担当者

松本 侃士/Matsumoto Tsuyoshi
1991年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2014年、音楽メディア企業に新卒入社し、音楽雑誌・ウェブサイトの編集や、採用などを経験。2018年、株式会社ビズリーチへ編集者として入社。現在は、ビジョナル株式会社の社長室で、Visionalグループ全体の採用マーケティング施策を担当している。


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