事業のために何ができるのか? 自らに問いながら、事業とともに走り続ける知財グループの4つの取り組み。
今回は、法務室の知的財産グループ(以下、知財グループ)の取り組みについて紹介します。
企業ブログ「All Visional」では、これまでにも知財グループの取り組みとして、Visionalの新規事業との深い連携に基づく知財活動や、社内の発信活動などについて伝えてきました。
この記事では、改めて、グループの成り立ちや変遷、大切にしている価値観をお伝えした上で、より具体的な活動について、知財グループの岩崎(トップ写真:左)と米谷(トップ写真:右)から紹介していきます。
プロフィール
知財グループの成り立ちと変遷
岩崎:知財グループは、Visional全体の知財機能を一手に担っている部門で、2021年8月に発足しました。知財グループの発足前は、法務室のメンバーが、スポット的に特許出願などに対応していました。そんな中、Visionalの事業づくりにおける知財の重要性の高まりを受け、知財の専門家として私が入社し、知財グループの立ち上げに着手しました。
Visionalは、「ビズリーチ」などのHR Tech事業だけでなく、M&A、物流Tech、サイバーセキュリティをはじめとした幅広い領域で複数の事業を運営しています。知財グループは、その全事業の知財機能を全方位で担っていますが、立ち上げ当初は、私一人しかおらずできることが限られていました。そこで、二人三脚で組織の立ち上げを担ってくれる仲間を求めて採用活動を進め、2022年8月に米谷さんが入社してくれました。米谷さんの加入により、組織としてできることの幅が一気に広がりました。現在は、我々2名で、8つの事業会社、12のサービスの知財活動を担っています。
知財グループが大切にしている価値観
米谷:知財グループには、組織を立ち上げた時からずっと大切にしている「事業のための知財」という価値観があります。知財活動の目的は、常に、事業を成長させることです。決して「知財のための知財」になってはいけない。知財活動を推進すれば、必ず事業がうまくいくとは考えていませんが、事業の競争優位性を保ち、揺るぎないものにするためのツールとして、知財は必要なものと考えています。
Visionalでは、各事業の日々の取り組みの中から、次々と新しい可能性が生まれています。そうした事業づくりを支え、また、そこから生まれた新しい可能性をさらに広げていくために、知財で何ができるのか、知財の専門知識や経験を駆使してとことん考え抜く。そうした姿勢で日々業務に取り組んでいます。
知財グループの取り組み
1. 知財ポートフォリオの構築(特許・商標の出願・権利化)
米谷:知財グループでは、Visionalの全事業の特許や商標の出願を推進しています。生まれたアイデアなどを闇雲に出願するのではなく、事業戦略における重要度や実施可能性などの共通の出願判定基準を策定し、出願の要否を判断しています。
また、重要な技術・デザイン・ブランドを漏れなく出願できるよう、各事業と定期的に接点を持っています。また、エンジニアやデザイナーが使用するデザインツールやSlackチャンネルに直接アクセスすることで、細かな仕様の変更なども逐次キャッチし、それを反映した権利の獲得を推進しています。
岩崎:知財グループを立ち上げたFY22(2021年8月〜2022年7月)に、特許の出願件数が大幅に増えました。それ以前も特許にできるアイデアはあったと思いますが、知財の専門家がおらず、その全てを特許出願に繋げることができていませんでした。知財グループができたことで、事業の汗と涙の結晶であるアイデアを特許という形にスピーディーに繋げることができ、その結果が、出願件数の増加として表れています。
※特許出願件数(左図)と特許保有件数(右図)
ただ、そこに至るまでには、いろいろな困難がありました。Visionalのように「IPO前後で知財機能を立ち上げる」という状況では、組織や文化もある程度できあがっていて、知財組織がない状態でも事業が運営できている場合が多いと思います。その中で、知財活動という新たな活動を推進するには、大きなエネルギーが必要でした。当時、既に従業員数が1,000名を超えており、誰に何を相談すればいいのかも分からない状況でした。そこで、飛び込み営業のように社内のメンバーと1on1を実施して、まずは地道に知財組織の認知を広めていきました。
米谷:そうした岩崎さんの活動があったので、私が入社した時には、既に多くの各事業部の仲間と定例で打ち合わせの場を持てている状況でした。それでもまだまだ、接点を持てていない部門もあったので、私も多くの社内のメンバーと1on1をしました。一方的に事業の情報をもらおうとするのではなく、競合企業の特許情報など、事業のためになる情報をこちらからも提供し、お互いに背中を預け合えるような信頼関係を築き、事業との関係をより密にできるように意識しました。その甲斐あって、最近は、事業側から「これって特許になりませんか?」といった相談が増え、良い活動ができていると実感しています。
さらに最近では、各事業の特性に合わせて、早期審査や面接審査も積極的に活用することで、特許の保有件数も大きく増加させることに成功しています。岩崎さんの言う通り、アイデアは事業の汗と涙の結晶です。モノづくりを行う仲間へのリスペクトを忘れずに、彼らの背中を押して開発をプッシュできるような特許出願活動をしていきたいです。また、決して特許出願の件数だけに固執することなく、質にこだわり、事業の優位性を築くために必要な特許を出願し、適切な権利範囲で権利化していきたいと思います。
岩崎:また、Visionalは、各社・各サービスにおいて事業成長を加速させるためにブランドの確立に力を入れていており、その一環として、商標出願を積極的に行ってきました。組織立ち上げ時には、全事業の営業資料やLP(ランディングページ)などをチェックし、重要なネーミングやロゴなどについて漏れなく出願し、商標ポートフォリオを構築してきました。
米谷:商標保有件数は、現時点で100件を超えており、ブランドを大事にするVisionalの文化が表れた結果だと思います。
※商標保有件数
2. 侵害予防調査
米谷:知財は、我々の強い武器になる反面、他者の知財権を侵害してしまうと、サービスや機能の停止、レピュテーションの毀損といった、致命的なリスクを事業に与える可能性があります。仲間が積み重ねてきた努力が、1件の知財の侵害で失われてしまう非常に恐ろしい面があるからこそ、そのようなことが起こらないよう、侵害予防調査こそ、知財グループとして最も注力すべき活動であると考えています。
侵害予防調査は、大きな知財部門がある企業では、定型的な知財業務としてR&Dなどのプロセスに当たり前に組み込まれていることも多いと思います。しかし、もともと知財組織がなかったVisionalでは、「なぜ他者の知財をチェックすることが事業にとって必要なのか」から丁寧に伝えていくことから始めました。侵害予防調査の必要性をきちんと理解してもらうことで、現在では、新たな開発やデザインを行う際に、知財グループで調査を行い、事業を交え、プロダクトの将来の姿などを踏まえた詳細な分析を行い、さらにはその後の具体的なアクションに繋げるプロセスができつつあります。
岩崎:侵害予防調査は、知財グループが2人体制になったことによる効果が一番大きい領域の一つです。自分1人で全サービスを見ていた時にはリソースも限られており、最低限のリスクチェックに留まっていました。それが2人体制になり、それぞれが担当サービスにしっかり入り込み、事業を深く理解することで、レビューの精度・スピードが上がり、十分なリスクチェックができるようになりました。サービスの数が多い分、チェックすべき特許や商標の数も多いですが、事業のスピードにブレーキをかけることがないよう、知財調査もスピード感をもって対応しています。
3. 権利活用
米谷:特許や商標は、権利として取得することで、後から他者に権利化されることを防いだり、他者の開発を牽制する効果がありますが、それだけに留まらず、積極的な権利の活用にも注力していきたいと考えています。
特許については、他社サービスに関する情報収集も行い、将来的な活用を見据えた権利になるよう取り組むことで、将来の紛争への備えにもなると考えています。また、プレスリリースやLPなどで、「特許出願中」「特許取得済」などと表示していることも、技術や機能の独自性・クリエイティブさを対外的にアピールするための大事な権利活用です。
岩崎:我々の知財を不正に利用する第三者に対して毅然とした対応をすることで、仲間たちが生み出した技術・デザイン・ブランドなどをしっかり守っていきたいと考えています。特に、商標については、Visionalのブランドを守るため、ブランド毀損に繋がる可能性のある不正使用には断固たる対応をとるべく、Web上でのウォッチングなどを実施しています。
※特許に関するPR例
4. 社内啓蒙
岩崎:知財活動は、我々2人だけでできることはわずかで、事業や他のコーポレート部門の仲間の理解や協力、相互の連携が不可欠です。知財と聞くと、自分の業務にはあまり関係ないと思う人も多いかもしれませんが、知財は、あらゆる職種の業務に関わっています。そのため、部門や職種に応じた内容のレクチャーを社内各所で行ってきました。
直近では、デザイナー向けに、UI(ユーザーインターフェース)の特許に関するレクチャーを行いました。レクチャーを開催する際は、1回あたりの参加人数を少なくすることで、双方向のコミュニケーションを取るようにしており、より自分事として知財を感じてもらうように心がけています。少人数での開催とすると開催回数が多くなってしまいますが、知財活動の立ち上げ期の今だからこそ、手間を惜しまず、地道に活動して、事業と知財の距離を近くすることが大切だと考えています。
米谷:今年の4月からは、新卒入社者や毎月のキャリア入社者向けの入社時研修プログラムの中で、日々の業務において知財に関して留意してほしい事項についてのレクチャーを始めました。さらに、プロダクト、営業、企画など、様々な部門の朝会や夕会を岩崎さんと2人で巡回してレクチャーをしたりしてきました。この1年間で、約600人のメンバーにレクチャーを行うことができました。
このような活動や毎月発行している社内報「知財NEWS」を通じて、多くの仲間に知財について知ってもらうとともに、Visionalは知財を大事にしているんだ、という意識を一人ひとりに持ってもらうことが、知財活動の活性化、引いては事業のさらなる成長に繋がると考えています。
※ 社内レクチャー資料の例
最後に
岩崎:我々が目指す姿は、事業が知財を「正しく」理解し、知財グループが事業を「深く」理解している状態です。その上で、事業と知財グループが一枚岩となって知財活動を推進することが、「事業のため知財」の実現に繋がると考えています。
その姿を目指して知財組織を立ち上げて約2年、まだまだ道半ばですが、米谷さんと二人三脚で突き進んできた結果、組織として着々と成果を積み上げることでき、確かな手応えも感じています。ただ、まだまだ改善の余地は多く、決して現状に満足はしていませんし、事業は日々変化しています。そうした事業を支える知財グループも、変わることを恐れず、どんどん学び、進化し続けていきたいと思います。
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