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社員のAI活用をサポート。社内向けAIチャットサービス「aiica」誕生秘話をお伝えします。

この記事では、2023年、株式会社ビズリーチのエンジニアが、一緒に働く仲間たちの事業づくりにおけるAI活用のサポートを目的として、AIチャットサービス「aiica」をボトムアップで立ち上げ、それが社内の専門性を持つメンバーたちとの連携を通して磨かれていき、やがて全社で利用される社内公式ツールへと繋がっていったストーリーをお伝えします。

2022年11月、アメリカでAIの研究を行う企業・OpenAIによりリリースされたAIチャットサービス「ChatGPT」は、リリース以降、世界中の多くの人々に広まっていきました。それからすぐに、ビズリーチ社内において、「ChatGPT」を事業づくりに活用するための動きが始まりました。

最初にボトムアップで動き出したのが、「HRMOSタレントマネジメント」の開発を行うエンジニアの齊藤拓朗さん(トップ写真:右)です。社員がメインで利用しているSlackのアプリ内で「ChatGPT」を活用するための業務ツールとして、「aiica」の開発を一人で始めました。そして、次に動き出したのが、情報システム部の小林直哉さん(トップ写真:左)です。齊藤さんが開発した「aiica」のプロトタイプの存在を知った小林さんは、「より価値あるものにするためのサポートがしたい」という想いから、当時まだ面識のなかった齊藤さんに声をかけ、社内の専門家チームを巻き込みながら、会社公式のツールとしての全社展開へと導いていきます。

このようにして始動した「aiica」プロジェクトは、社内の機微な情報を取り扱う上でのセキュリティ対策や、セキュリティを万全にするための脆弱性診断、「ChatGPT」のサービス規約や国内外の法令の遵守などを徹底しながら、数々の障壁を一つずつ乗り越え、着実に磨かれていきました。セキュリティや法務の専門家、また、多くの経験を有するAIの専門家をはじめとした社内の仲間たちのサポートを経て、2023年7月に社内リリースが実現し、その後、多くの社員によって活用され続けています。

今回、齊藤さんと小林さんにインタビューを行い、「aiica」に込めた想いや、社内リリースに至るまでの経緯、また、今後についての考えを聞きました。

※「aiica」のネーミングの由来:過去に総務AIチャットボットとして提供されていた「aiiqa」の名前を継承し、末尾の「qa」をChatの「ca」に変更しました。


プロフィール

齊藤 拓朗/Saito Takuro
SIerにて金融系システム開発やクラウド利活用を経験後、自社でのプロダクト開発に携わるため、2018年に株式会社ビズリーチへ入社。HRMOS事業でSREとして従事。

小林 直哉/Kobayashi Naoya
SIerにて官公庁システムなどの開発を経験後、2003年にヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に入社し、サービス開発およびプラットフォーム開発を担当。2013年からは同社でデータ部門に主軸を移し、マネジメントとして全社的なデータ分析基盤やデータプロダクトの提供、および、データガバナンス、データ利活用などを推進。日本IBMでのITコンサルティング業務を経て、2022年に株式会社ビズリーチに入社。情報システム部データソリューショングループにて、データ分析基盤の提供からデータ利活用やデータガバナンスの推進マネジメントに従事。​​


左:齊藤拓朗さん
右:小林直哉さん


ボトムアップでスタートした後、社内の専門家たちの協力を経て正式プロジェクトへ。

──はじめに、お二人が普段担っている役割を教えてください。

小林:私は株式会社ビズリーチで、情報システム部プラットフォームグループとデータソリューショングループのマネージャーを務めています。前者は、全社的なシステムの運用や保守で、具体的には、ビズリーチのコーポレートサイトや、「ビズリーチ」をご利用になる企業様向けのサイト、基幹システムなどで利用される監視機能などが対象になります。後者は、ビズリーチ事業の統合したデータを分析する基盤を提供し、マーケティング、営業活動、プロダクト開発、経営戦略などに利用されるデータの提供からデータ活用の支援までを行っています。

齊藤:私は、株式会社ビズリーチで、「HRMOS」のプロダクト開発をしています。具体的には、「HRMOSタレントマネジメント」において、SRE(Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング)という分野を担当しています。

──「aiica」の誕生の最初のきっかけ、また、もともとは齊藤さんの個人開発から始まった「aiica」が、会社の正式なプロジェクトとして走り始めた経緯について教えてください。

齊藤:2022年の年末に、LLM(Large language Models:大規模言語モデル)の象徴的なサービスである「ChatGPT」がリリースされたことは、「aiica」の誕生に繋がる大きな出来事でした。最初の頃は、「ChatGPT」に質問を書いて面白い回答をSNSでシェアする人が世の中的に多かったのですが、私はもっと実用的な使い方として、Slackで動くアプリケーションとして開発して、それをこの会社で働く社員たちに共有したいと考えました。Slackなど普段使っているコミュニケーションツールの中で、社内のメンバーがLLMという新しい技術に触れる機会を持つ。他の人の使い方を見て学ぶ。そのようにして社内に新しい技術に関する知見やノウハウが蓄積されていくという流れを考えていました。

ですが、実用性という点で確信が持てなかったため、まずはとにかく手を動かして個人でプロトタイプを作ったのが発端です。その後、一部の人に使ってもらいながら様子を見ていたところ、小林さんから声をかけていただきました。個人で続けるには、コストやセキュリティ面の保証など様々な点で限界があると気付き始めたタイミングだったので、「会社の正式なプロジェクトとして進めてみませんか」というご提案は、まさに渡りに船でした。

──担当している事業や部署が異なるお二人ですが、それまで交流はあったのでしょうか?

齊藤:小林さんのチームのメンバー数名と交流がありましたが、小林さんとは面識がありませんでした。なので、最初にお声がけいただいた時は少し驚きました。

小林:実は、対面で話す機会はこのインタビューが2回目で、齊藤さんがおっしゃるように、「aiica」のプロジェクトが始まるまで、僕と齊藤さんは全く面識がなかったんですよね。ただ僕としては、齊藤さんに思い切って声をかけたいと思いました。

その理由の一つが、AIの進化です。2018年、当時僕が勤めていたソフトバンクグループの代表の孫正義さんが、「AIが人間を超える日、シンギュラリティーが迫っている」「これからはAIを基点に考えていく」「もうAIのこと以外考えるな」と言っていたのが印象的だったのを覚えています。当時の僕は、特定の分野で既にAIは人間を超えていましたが、生成AIの領域で人間並になるのは早くても10年くらい先の話だと考えていました。ただ、孫さんの話から4年後の2022年11月に、OpenAI社が「ChatGPT」をリリースしました。まだ人間を超えたとまでは言えませんが、だとしても、こんなに早期に、非常に高い精度のコミュニケーションを可能とするAIチャットサービスが生まれたのです。その衝撃は、インターネットやスマートフォンの誕生に近い衝撃でしたし、これは事業に活かせるのではと思いました。

もう一つの理由が、僕の中に根付く価値観です。僕が以前在籍していたソフトバンクグループのヤフー(現:LINEヤフー株式会社)には、自ら手を挙げることや、手を挙げた人をサポートするカルチャーがありました。ビズリーチのカルチャーで例えるところの「挙手・握手」に近いと思います。そういった背景があり、僕は、自ら動き出す意志や能力のある人の情熱を解放し、サポートすることは、当然やるべきことだと思っていました。

だから、今回、齊藤さんがSlackのチャンネルで個人開発したツールの提供を始めた時、僕も何か手伝うことができるのではと思いました。とても価値あるツールですが、当時は非公式ツールであり、事業として公式に利用することができませんでした。会社の正式なプロジェクトとして周りを巻き込みながら進めていけば、より大きな価値が生まれると考えました。

齊藤:その後は、小林さんの働きかけによって、社内の各所から正式な協力・承認をもらうことができて、結果としてビズリーチ社全体に提供できるようになりました。自分のチャレンジを認めてもらえて、素直に嬉しかったです。

また、小林さんと伴走しながら、僕自身とても大きな学びがありました。新しいプロジェクトをスタートさせる時や、最新の技術やシステムを導入する際には、社内に様々なチェックフローがあり、正しく物事を進めるということは大変なこともありますが、それは社内の関係者や専門性を持つ方々の信頼を積み重ねていくフローでもあるのだと気付きました。今回の経験を通してそうした気付きをもらえて、心からありがたかったです。

小林:そう言ってもらえてよかったです。小さくスタートさせた取り組みを正式なプロジェクトの形にして社内承認を得る、計画を出して予算を確保する、といったプロジェクトスタートのステップは、僕がこれまで何度も経験してきたことなので、そこはスムーズに進められましたし、価値を発揮できたところかなと思っています。

今回、社内の関係者の理解が得られやすかったのも、このプロジェクトがスムーズに進んだ理由だと思います。僕の上司に話した際は「いいんじゃない」と前向きに捉えてくださり、さらに僕の所属部門を管掌している執行役員も背中を押してくれたので、通常の業務と並行してプロジェクトを進めていく合意を得やすかったです。

齊藤:私もそうですね。それまで動かしていたプロトタイプがあったので、「このツールの全社版を作ります」と説明することで、何ができるのか、誰にメリットがあるのか、どんなことに使えそうなのかというイメージを持ってもらいやすく、周囲からの協力や理解を得やすかったと思います。

小林:当時、世の中的にも「ChatGPT」が大きな話題となっていて、社内にもその知見に関するニーズがありましたし、懸念を主張するより「やってみよう」という声のほうが多く、そうしたVisionalらしいカルチャーがさらに追い風になりましたね。

──正式なプロジェクトとして動き始めた後は、どのようにして社内リリースに向けて準備を進めていったのでしょうか?

小林:プロジェクトに必要な知見を有する社内の専門家に声をかけて、どんどん巻き込ませていただきました。最初の大きなテーマがセキュリティで、これは当時、「ChatGPT」界隈で最も懸念されていた点です。

齊藤:具体的に言うと、OpenAI社に送った情報が学習に利用されてしまうことで、自分たちの会社以外の他のユーザーに流れてしまうリスクを懸念していました。「aiica」では、社内の機微な情報を入れることも想定されるため、送信したデータが学習に再利用されないことなどを確認しました。その他、その時点で出ていた各社のLLMサービスの比較などもしていました。

そうした技術検証の際に連携した専門チームがセキュリティ室です。セキュリティ室のメンバーは、普段からAIのことをとても勉強されていて、最新の技術やその動向をキャッチアップしていました。皆さんの協力のおかげで、開発したツールの脆弱性を診断するにあたり非常に信頼性の高い判断をすることができました。

小林:また、AIの活用に関する知見を惜しみなく共有してくれたのが、AIグループのメンバーです。僕らが抱えそうな問題、例えば、契約や規約などの法務周りの知識や手続きについて先回りしてアドバイスしてくれたり、障壁になりそうなポイントを指摘してくれました。契約周りの手続きに関しても、法務室のメンバーと連携し、国内外の規約や法令を遵守しながら丁寧に進めることができました。

関わる方々が、みんな本当に親身になって一緒に考えてくれましたし、僕たちと共に学びながら、新しいチャレンジに一丸となって取り組んでくれたことが、とても頼もしかったです。


「aiica」の活用事例


目指すのは、事業づくりにおけるAI活用のプロフェッショナルの輩出。

──「aiica」は、社内リリース後、多くの社員に活用され続けています。今後のプロジェクトの展開についてはどのように考えていますか?

齊藤:今のところ、機能を拡張させていくことはあまりイメージしていません。AIの技術的な革新はこれからもどんどん進むと思いますが、それはOpenAI社がLLMを拡張させたり、Slack社がチャットツールを拡充したりなど、それを専業とする企業が突き詰めて進めてくれるはずです。私たちにとって大切なのは、事業づくりのために新しい技術をどのように活用することができるか学ぶという点で、「aiica」はその一つの手段に過ぎないと思っています。

小林:僕も同じ考えです。今回は、公式AIチャットソリューションを社内に迅速に提供することが目的でした。それは「aiica」の社内リリースによって達成できました。これからSlackやGoogleのスプレッドシートなど、もっと便利なAI機能がどんどん提供されていくと思います。「aiica」がそれらに切り替わっていってもよいと思っています。皆さんには、新しいAI機能を通してどんどんAIに触れ、業務効率化をしていってほしいと思います。今後、「aiica」やその他のAI技術を使い倒して、事業づくりにおけるAI活用のプロフェッショナルとなる人が出てきて、そうした知見が社内に広がっていくことを期待しています。

僕は、AIは脅威ではなく、親しみをもって共に歩む存在だと思っています。私たちがAIの良き理解者になれた時、その知識は、AIを活用する全ての仲間に有用な共有知になりますし、会社の財産にもなります。もちろん「aiica」もたくさん使っていただきフィードバックがあれば、ぜひ、小林にご連絡いただきたいですね。


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この記事の執筆担当者

伊藤 友里/Ito Yuri
大学卒業後、株式会社ワコールに新卒入社。その後、JASDAQ上場の不動産会社、外資系IT企業の広報を担当。東日本大震災後、総合マーケティングコンサルティング会社にて、企業PR・ブランディングのコンサルタントを務め、2020年、株式会社ビズリーチへ入社。現在は、ホールディングス広報として、メディア運営、インターナルコミュニケーション、リスク・クライシスコミュニケーションの業務に従事している。


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