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【書籍連動企画】CDO 田中裕一、「経営とデザインの接続」を語る。

2021年6月30日、ダイヤモンド社より、書籍『突き抜けるまで問い続けろ 巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡』が発売されました。

書籍の紹介記事は、こちら。

書籍の中では、Visionalが経営において大切にしているポイントとして、「取締役の過半数を、エンジニアやプロダクトマネジメントの経験を持つ人材が占めることを経営のルールとしている」と綴られています。

実際に、創業取締役は、南壮一郎さん(Visionalグループ代表)以外は全員エンジニアかプロダクトマネジメントの経験を持つ人材で、竹内真さん(ビジョナル株式会社 取締役 CTO)、永田信さん(ビジョナル・インキュベーション株式会社 代表取締役社長)たちの力なくして、創業事業の「ビズリーチ」が立ち上がることはありませんでした。

書籍の中では、事業づくりにおける「プロダクト×データドリブンマーケティング」の重要性が語られていましたが、創業当初から大切にされていたもう一つの要素が「デザイン」です。

2018年、田中裕一さんがCDO(Chief Design Officer)に就任しました。田中さんは、「デザイン」を経営と接続することで、Visionalグループの事業づくりの更なる推進を目指しています。

田中さんのパーソナルヒストリーインタビューは、こちら。

この記事では、書籍の中では伝えきれなかった話として、田中さんやデザイン組織の仲間たちが、課題に対して「問いを続ける」うえで大切にしている考え方や価値観について紹介していきます。


プロフィール

田中 裕一/Tanaka Yuichi
通信販売会社でのEコマース事業立ち上げ、インターリンク株式会社での複数企業のプロジェクト推進を経て、2012年、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。Eコマース事業のデザイン統括、新規事業のプロダクトマネジメント、デザイン人事に従事。2017年、株式会社ビズリーチに入社。2018年、デザイン本部を組成し、デザイン本部長兼CDOに就任。2020年2月、現職に就任。


Visionalグループが大切にし続けている「ものづくり」の精神。

──田中さんは、2017年4月に入社していますよね。改めて入社の経緯について教えてください。

前職のDeNAでは、「ビジネスとデザインを正しく結びつける」というテーマを掲げ、約3年かけて、デザインを定量的な指標と紐付けてビジネスインパクトを可視化することに取り組んできました。その過程で、もともと約20名だったデザイン組織が約80名規模に成長し、DeNAの入社時に掲げていたテーマに一つの区切りをつけることができたと考えました。

一方で、海外の企業と比べると、日本の企業では、ビジネスとデザインの接続が大きく遅れているという思いもありました。日本の企業が世界で通用するようなビジネスを実現するためには、今以上に、「ビジネスとデザインを正しく結びつける」ことが必要で、しかし、それを既存の会社の中で実現しようとすると少なくとも10年はかかるかもしれない。それならば、自分でデザインのチカラを最大化する会社を立ち上げようと考えていました。

独立を見据えて投資家の方々と話を進めていたのですが、その時期に、ビズリーチからお声がけをいただき、(竹内)真さんと話す機会をもらいました。その時の印象は、真さんは、エンジニアでありながら、経営者としての観点、また、デザイン思考を持ち合わせている、ということでした。その時に真さんと、デザインの経済合理性について話したのですが、私と考えが通じる点が多かったのが印象的でした。

続けて、永田(信)さんとも話しました。永田さんは、プロダクトマーケティングのプロフェッショナルでありながら、デザイナーとしてのバックグラウンドを持つ人で、それだけでなく、真さんと同じように経営者としての観点も持ち合わせています。

二人と話すなかで、この会社の経営においては「デザイン」が重要なものとして位置づけられていることを感じました。そして、「この会社であれば、独立して10年かけて目指そうとしていたテーマを、5年で実現できるかもしれない」と思い、2017年4月に入社をしました。

余談ですが、南(壮一郎)さん自身も、デザインに対する強いこだわりを持っています。南さんは、例えばロゴデザインのクリエイティブについて、「ここの色が明るすぎる」「ここの文字の隙間が少し狭いね」というように、細部まで徹底的にこだわってチェックしているんですよね。

トップがここまでクリエイティブにコミットできるって凄いことだと思いますし、そうした人がトップだからこそ、Visionalグループの「ものづくり」のカルチャーが、大切なものとして守られ続けているのだと感じます。

また、デザインだけではなくて、ビジネスの領域にも通じますが、南さんは、目的からアウトプットまでのストーリーの一貫性をとても大事にしています。まさに、「突き抜けるまで問い続ける」ということだと思いますが、一貫性に徹底的にこだわり抜く姿勢は、南さんの凄い点ですし、私自身も、そうした姿勢や考え方にとても共感しています。


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ビジネス感覚を養うことで、デザイナーとしての影響力を広げていく。

──入社当時、田中さんが最も注力していたテーマについて教えてください。

最も重要なテーマは、経営とデザインの接続です。

ヒト・モノ・カネなど、経営におけるROIが測りやすい他の要素と比べて、デザインは、その価値を定量的に測るのが非常に難しいと思っています。だからこそ、会社としてデザイン領域に投資することでリターンがあることを証明するために、それまで感覚的に行なってきたデザインのプロセスを体系化し、デザインの可能性を合理的に可視化する仕組みを作っていかなければいけないと考えました。

はじめに、一つ一つのクリエイティブのレベルを定量的に評価するモデルや、求められる品質を担保するための基準を作っていきました。経営の観点、各事業部の観点など、それぞれの立場から納得感のある仕組みを整えていくことは非常に難易度の高いプロセスでしたが、園田(剛史)さん(ビジョナル株式会社 執行役員 CIO)若井(大佑)さん(ビジョナル株式会社 執行役員 CISO)の取り組みを参考にさせてもらいながら進めてきました。現在は、そうした仕組みを、Visionalグループの各社へと広げていくことに力を入れています。

──その他に、注力してきたテーマはありますか?

経営とデザインの接続というテーマにも通じますが、その実現のためには、組織の在り方をデザインし直していかなければならないと考えました。それまでのスタートアップの延長線から脱して、中長期の成長を見据えた組織を目指していくために、約2年をかけて、少しずつ組織の構造を設計し直していきました。

また、何よりも大事なのは、その組織で働くデザイナーの仲間たちです。経営とデザインの接続というテーマを実現するために、デザイナーの採用活動、また、その前提となる採用ブランディング施策に注力していきました。

──どのように採用ブランディング施策を進めていったのでしょうか?

新しく、デザイン・フィロソフィー「We DESIGN it.」を策定しました。これは、Visionalで働くデザイナーにとっての哲学となるものです。インナーブランディングの意味合いも強かったのですが、「We DESIGN it.」を通して、Visionalのデザイナーが大切にしている考え方や、課題解決と価値創造のプロセスを対外的に伝えていくことは、その後の採用活動に大きなインパクトがあったと考えています。

──評価における基準の策定や、組織づくりの話を聞いていて、まるで一つの会社をつくっているように感じました。

まさに、会社を作ってるような感覚がありますね。便宜上、私はCDOという役割を担っていますが、実際に手掛けていることは、一般的に期待されるデザイナーの役割の範疇を大きく超えていると思います。私自身、自分が純粋なデザイナーであるというよりも、「デザイン思考を持つビジネス領域の人」と「ビジネス感覚を持つデザイン領域の人」という認識のほうが強いかもしれません。

──これまでの話を聞くなかで、田中さんは、課題と向き合ううえで、非常にビジネス感覚を大切にしている印象を受けました。

ありがとうございます。ビジネス感覚は、まさにデザイナーが大切にすべきものだと思っています。

というのも、デザイナーの力は、大きく2つの要素に分けられると考えていて、1つ目は、多くの方にとってイメージしやすいと思うのですが、アイデアを形にする力です。

そして2つ目が、上流工程から設計する力です。例えば、何かサービスを作るうえでは、「誰の」「どのような課題を」「どのように解決して」「どれだけの対価をいただくのか」というユーザーを中心とした一貫性が重要になります。

この2つ目の上流工程から設計する力については、まさにビジネス感覚が肝になってくると考えています。お客様のことを理解しているか、世の中のビジネスの仕組みや業界構造を理解しているか、お金の流れを含めたビジネスモデルや、事業成長のために追うべき指標について理解しているか、というように、経営やビジネスの最前線でお客様と向き合っている仲間たちと同じ目線で、その事業について自分ゴトとして語れるかが重要となります。

もちろん、チームで事業づくりを進めていくうえでは、ここで挙げた2つの力以外にも、プロジェクトを推進する力や、再現性を担保するための仕組みを作る力など、様々な力が求められます。

課題解決のために、デザイン以外の力をも養いながら、デザイナーとしての影響力を広げていく。こうした考え方は、先ほど話した「We DESIGN it.」においても明文化されています。実際に、Visionalで活躍しているデザイナーは、ビジネス感覚に長け、次々と越境しているメンバーが多いと思っています。


明確な「答え」のない世界で、徹底的に「問い」を立て続けていく。

──田中さんは、CDOとして、日々、様々なシーンで「問い」を立て続けているかと思いますが、問いを立てるうえで大切にしている考え方などはありますか?

1つ目は、自身の経験則を大事にしています。Visionalでデザイン関連の課題と向き合ううえでは、やはりこれまで積み上げてきた経験と知識が活きることが多いです。実際の体験を振り返ることを通して再現性を抽出し、仮説を立てるようにしています。

2つ目は、「歴史は繰り返す」という考え方です。もし自分が経験していないとしても、これまでの歴史を学ぶことで、「次はこういう流れが来るよね」「失敗の本質ってこういうことだよね」といった気付きを得ることができます。この2つ目の考え方は、潜在的な課題に対するアプローチに近いですね。

──ちなみに、既に顕在化している課題についてはどのように向き合っているのでしょうか?

目の前の課題に対しては、対象者に徹底的にヒアリングを重ねていくことで、課題の解像度を高めるようにしています。私は相手の話を聞くなかで、些細な感情の揺らぎを敏感に捉えるように心がけていて、その揺らぎを起点として「なぜ?」と深掘りしていく、そして違和感を感じたら、そこを更に広げていきます。

そうして次第に課題の解像度を高めていき、場合によっては、「それって本当に課題なんでしたっけ?」というように、問いそのものをゼロから立て直すこともあります。

一番好ましくないのは、How(手段)が先行して議論が進んでしまうケースです。しかし、そうした時でも、問いを重ねながら課題の解像度を高め、チームで目線を合わせながら議論をしていくことで、最終的なHowがもともと考えていたものと全く異なる形になる、ということもあります。

逆に言えば、デザイナーは、どのようなシーンにおいても、このように「問い続ける」ことを徹底的にやっていかなければいけません。思考停止して頼まれたことだけをやる姿勢は、Visionalのデザイナーとしてふさわしくないと考えています。

──課題が顕在化しているか、潜在化しているかによって、向き合い方が大きく異なるのですね。

1つ目として話した、顕在化した課題に対する経験則に基づくアプローチは、どちらかと言えば、過去の経験をもとに答えを探り当てていく感覚に近いです。過去に自分がぶつかった壁については、その時に学んだセオリーがあり、その意味で、既に解決済みの課題については明確な仮説が存在します。

しかし、今回話してきた経営とデザインの接続に関する課題については、その多くの場合において明確な仮説が存在しないので、だからこそ、いつまでも問いを立て続けていくしかないんですよね。もちろん、答えを探す作業のほうが楽ではありますが、そうした考え方から脱却をしなければ、真の意味で、経営とデザインの接続を実現することはできないと思っています。

たとえ、徹底的に考え抜いたとしても、迷いながら走り続けることがほとんど、時には、これまでやってきたことが思い描いていた結果につながらないこともあります。それは、とても苦しい道のりで、大変な思いをすることも多いです。ただ、私たちは、まだ答えのない領域に挑戦しているからこそ、そうした苦しみを引き受けていかなければいけません。

この数年間で、少しずつ前進できているという確信はありますが、Visionalグループとして新しい領域における事業づくりに挑戦し続けていくためには、今以上に、デザイン思考をもとに事業づくりのアプローチを体系化し、再現性をもたせていかなければいけません。その意味で、私たちはまだまだ道半ばです。

これからも、世の中の課題を次々と解決していくために、Visionalグループの仲間たちとともに徹底的に問いを立て続けていきたいと思っています。


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この記事の執筆担当者

松本 侃士/Matsumoto Tsuyoshi
1991年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2014年、音楽メディア企業に新卒入社し、音楽雑誌・ウェブサイトの編集や、採用などを経験。2018年、株式会社ビズリーチへ編集者として入社。現在は、人事統括室・採用マーケティンググループで、「ALL VISIONAL」の運営などを担当している。


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